バンク・オブ・仏陀の道2012 Vol.10

 『最終ミッションCSミーティング』

CSミーティング

075CSミーティング

CSのミーティング会場に到着した。アウンの手回しで今日のために市内のオフィスビルにある一室を借りていた。

余談だがどこでミーティングを行うかそれに対しても勝手に決めるとバルワからいちゃもんが入る。だからといって彼らに決めさせると、習慣の違いかもしれないが必ずと言っていいぐらい個人の家になってしまう。そうなると非常にやりづらい。

会場にはCSバングラディシュ法登録の役員9人が全員集まり、さらに上川氏、伊勢、チャンドラバングシャ、スーランの合計13人で行なわれる事になった。

 

ミーティングは、アシシュによる挨拶と司会で始まった。最終日だけの参加にもかかわらず勝ち誇ったような態度で会議を進行するアシシュ。

俺はこのミーティング中に起こるうるであろうトラブルを想定し最初っからからテンパっていた。

感情的な口調になりやすい俺は前回アシシュに切れてミーティングを台無にするという失態を演じてるだけに、今回は作戦として会議中はなるだけ発言を控え、言うべき事は上川氏にまかせて英語通訳に徹する。

そのため事前に上川氏には、彼の口から言ってほしいことを仕込んでいた。アシシュは日本語が出来る。上川氏は日本語しか出来ない。これはうってつけである。怒りを表す時や人を非難する時、言語で言うのがいちばん感情が伝わりやすい。

アシシュは司会と通訳をかねていたため、立場上言われた事はそのまま伝えなければならない。

その場でアシシュに直接に引導を渡せれたらいいとも思っていた。

この勝ち誇った顔、アシシュめ~余裕こいてられるのも今のうちだ…今日という今日は目にもの見せてやる。

…俺は何とかギャフンと言わしてやりたい、そんな思いでいっぱいだった…。

僧侶の上川氏が前日、興味深い事を言った。彼が言うには仏教の考えとは相互扶助、そういう意味でもどちらかと言うと現代の民主義的発想よりも共産主義の方が近いかもしれない…と。それはしてやったりだ!「それなんとかアシシュに言ってやってくださいよ~あのミスターデモクラシーアシシュに」と俺は頼んだのだった。

俺は密かに微笑んだ…どんな顔するか楽しみだ、、デモクラシーデモクヤシー(笑)

ミーティングは和気あいあいとなごやかムードで進んでいいるかのように見える。アシシュは相変わらず勝ち誇ったように日本語の上川氏の発言をベンガル語通訳する。

そういえば一週間前のバンコクでの会合中、日本人の進行役が英語の聞き取りに躊躇した時など「日本語で言いますか?」などと出しゃばってた。俺が通訳してる間や他の日本人がプレゼンしているときも、間違ったり分からなそうなそぶりを見せる度に、その隙を狙って日本語を披露しようとやたらオーラが伝わって来てうざかった。

俺はこの男にだけは助けを求めたくないのだ。

話を会議に戻そう。上川氏の調査報告は冒頭にまず最初に訪れたBOBサイト、シャンガプリア僧侶の担当するシャプラ村から切り込んだ。歯に衣着せず彼のストレートでシャープな物言いが心地いい。

俺なんかは腹の中ではくそめそに言っていても、外ずらがよく、ついついどちらにもいい顔してしまう…

上川氏は続ける。ここの地域ははっきり言ってBOBのことを理解してないのではないかと思う。原資が減っているのは問題だ。他の地域と比べても一番状況が悪い、と。

これに強く反応したシャンガプリア僧侶…さらにいつも一心同体のアッシシュの2人は必死に「減ってない増えている」と言い張る。

しかし返済がとどこおっている人も少なからずいる、増えているとは考えずらい。さらに以前借りた受益者のほとんどがまた借りたいと融資を待っているようでは、広がってるとは言えないし計画性に問題だある。融資を受けた人が、自立独立出来なかったと言う事である。と上川氏が鋭く畳み込む。

  それでも往生際の悪いこの2人「インクリース、インクリース(増えてる増えてる)」と言い張る。

そりゃ最初の貸出しと新しく貸し出した総額を合わせれば増えているに決まっている…ん~ん不透明だ…。

そこで厳しい条件を突きつける「ここの地域では今後一度融資を受けた受益者には融資をしない」と上川氏の口から冷たく言い放つ。

いいぞいいぞ~シャンガプリアめ、かわいがってる子分達!あいや受益者の当てが外れちゃったね~

自称CSバングラディシュ代表アシシュと自称CSチェアマン(会長)シャンガプリア、この二人を前にこれ以上空気を悪くすると会議は進まなくなる、増えてるとか減ってるとか終わりのない議論は後回しにし、とりあえずこの場は引き下がる…。

俺は遠目からず~とシャンガプリア僧侶の様子を探っていたが、あのうすら笑いを浮かべた顔は消え、こわばった顔に変わっていた。仏から阿修羅に変身し始めたのか…。

俺は来た来た来た~と内心はエキサイティングしながらも顔は必死に冷静を保つ…

さらに報告が進む。チャクマ(ジュマ族の一つ)ピブロップの担当するランガマテのディグリバ村の報告になった。

上川氏が誇らしげに皆に伝えた。この地域で行われているBOBはバングラディシュはもちろん各国(5カ国)で行われてるブッダバンクのなかでも最高の成果を得ている。我々が考えていたBOBの形を最も理想的に展開してると言ってもいいだろうと語った。

俺はうれしくなり誇りをもって声高らかに皆に伝えた。「BEST OF THE  WORLDと。

アウンはうれしそうにピブロップの肩を叩きねぎらう。

そして一同拍手喝采。

そのあと新たに決定した7番目ブッダバンクについて発表した。そこはバングラディシュに来て最初に視察したバルワ族(ベンガル仏教徒)のポットバラ村。

原資になるのは他の地域とのバランスを考え八万円その場で担当のウノポンに手渡しに渡した。

金額を発表したところうウノポンの顔は期待してた額より少なかったのか、「何だ少ないなぁそれだけかよ」とこぼした。

…ふざけやがってこれでも多めに予算を組んだのに前回始めたキャンの村なんか4万だぞ!お前金持ちなんだから自分でたせよ…少しは期待してたのやっぱこいつも他のバルワと変わらんのか…アシシュの従兄弟だしな~…。

まあ考えてみると彼の村は人口4000人と他の地域と比べてもかなり大きい。仕事のない女性たちだけでも50人以上がBOBを利用したいと聞いている。確かに満足な額ではない。しかしキャラの違いと言うか、今までジュマの村では金額に対し不満らしいそぶりを見せた人はいない。バルワのアシシュぐらいだ…!

…ウノポンの真剣な顔に決意のほどが見えたのでいいとするか…

原資を受け取るウノポン
076原資を受け取るウノポン

そして次の議題は追加金の発表である。

と言っても追加と呼べるほどの額ではない。応援と感謝の気持でと言うのが本来の理由である。

一番成功しているビブロップのディグリバ村に1万5,000円。次にイノセントな人たちの純粋な心に打たれランガマテのナランギリボリバラ村に1万円。

追加融資を受けるピブロップ
077追加融資を受けるピブロップ

追加金を受け取るスノモジュテ僧侶
078追加金を受け取るスノモジュテ僧侶

ザッツオール(以上)

と言った瞬間バルワの人間たちの顔色は変わり暗雲がたち込める…。

本来BOBの原資の追加金は考えていなかったが、純粋にこちらの意向に答えようと努力する人たちや、感謝の気持ちを表す村人のけなげな姿に、人情として何かしら応援してあげたいと思うのは人として自然な事である。

そういういきさつをバルワの人たちにも理解してほしい…。

さらに会議は進み懸念していたBOBショップ構想についての協議に入った。

CSの活動にいつも金銭的支援してくれるあるドナーがいる。その予算が18万円あり我々はその予算をBOBショップの構想に使いたと思っている。しかし現在までの経緯でいちばん恐れているのはここでもまたバルワ側の反発である。そこで無駄な疑いやもめ事を避けるため一計を案じた。

この18万円の予算でBOBショップを始める事は、BOBショップ構想に共感して出資してくれたドナーの意志である。したがってその意思を尊重するためにも他のプロジェクトには一切使えない。

「これは決定事項である」と上川氏が宣言した。

基本的にドナーからはCSの活動なら何に使ってもいいと言われているので問題はない。

先ほども触れたが昨年訪問したとき、俺自身アシシュと一悶着あって連絡が途絶えたまま、バルワ側との協議なしで進めたBOBショップ構想である。そのためバルワ側の強い抵抗を予想してた。

今回あえて初日にウノポンのバルワ族の村で、ブッダバンクを始めることを決定したのも、実はバルワ側の反発を牽制する狙いもあったからだ。本来なら以前視察したジュマの村でブッダバンクを必要としてる所は幾つもあったのだ。

飴と鞭である…。

会場ではBOBショップ構想の趣旨やコンセプトをアウンが一生懸命全員に解説する。皆一応に納得してくれたようだ。

当たりまえだ!こんな素晴しいプロジェクト反対する奴がいたら、そいつは自分の事しか考えない嫉妬野郎だ!

わざわざ日本からの視察に訪れ、黒い袈裟をまとった僧侶、CSの事務局長上川氏が、彼の口から直接決定事項を伝える。それは日本語で話し司会件通訳のアシシュによりベンガル語に通訳される。くい違いのないよう僕がさらに英語で伝える。このコンビネーションとアジテートされた演出効果に、だれも口を挟む余地はない。

決定事項が粛々と伝えられていく。

チャンドラバングシャ僧侶もアラカン族のスーランも終始真剣に会議を見守っていた。

そこに来て各地のBOBの成果に刺激されたのか、9人の役員の一人、オビジー教授が手を上げた。「私の故郷の村でもブッダバンクを始めたい」と彼は言う。僕は即答した。「オフコース」そのためにあなた方は役員になったはずです。俺は皮肉と感謝をこめて言った。「貴方からリクエストがあったのは今日が初めてですね!」彼は罰悪そうに苦笑い。そして一同どっと笑い、なごんだ空気になった。

このオビジイ教授もバルワの人間で、ウノポンと共にアシシュとシャンガプリアが連れて来て、役員として半ば強制されて受け入れざる終えなかった。

失礼な言い方をすれば、名ばかりの参加であった。たぶん基本的に違法行為であるブッダバンクがどう展開するのか、様子見をしてたのであろう。政府機関へのNGOとしての法登録が済み、あちこちでBOBが成功し、広く展開して行く兆しを今日この場で感じ取った彼は、ミーティングの終盤に差し掛かって表明を決めたのだろう。

さすがは大学教授、計算高い…。

オビジイ教授(左から3ッ番目)

079オビジイ教授(左から3ッ番目)

そしてもう一人、女性役員でトンチョンガ族のクラミスさん、いつも控えめで静かなほとんど発言することなく

見守っているのだが、このときに初めて彼女は自分の口から発言「私の村でもブッダバンクを始めたい。」

おお~うなんという相乗効果!皆モチベーションを上げてきたあ。

彼女はまだとても若く23~25ぐらいだろう。会合には必ず参加している。見るからに素直で気配りがきき、ナランギリボリバラ村でのBOBを手伝っている。ジュマ(先住民)は全部で12部族いるが、現在までブッダバンクを始めているのはマルマ族、チャクマ族、キャン族の3部族のみである。ここに新たにトンチョンガ族が加わる事の意義は大きい。なぜなら(CHT)チッタゴン広陵地帯がよくなっていくにはエスニックの団結が必須であるからだ。

トンチョンガ族のクラミスさん(ラジャストリにて)

080トンチョンガ族のクラミスさん(ラジャストリにて)

上川氏による閉会のあいさつで、CSの信念と主義について触れた。その中に「我々は仏様の教えを柱としている。したがって現代の西側が作り出した議会制民主主義よりも、相互扶助を中心とした僧伽主義はどちらかと言うと共産主義に近い。」

と!言った途端通訳のアシシュは一瞬言葉を止めた。え!今ななんて言いました?アシシュ…顔と耳をこちらに向け首を傾ける。上川氏はもう一度同じことを繰り返し言う。戸惑いを見せるアシシュに俺は追い討ちをかけるように言いはなった

「俺たちは民主主義じゃなくて共産主義なんだと!」

明らかに動揺を隠せないアシシュ。

思い知ったかミスターデモクラシーめ!いつも薄っぺらな民主主義を振りかざしやがって「僕は民主的にやりたいんです」だと~ふざけんじゃねえ何度この言葉にごまかされたことか、、こにきてリベンジだ。さっさと通訳しやがれ皆に伝えろ…。

誤解のないよう、共産主義と言っても中国やロシアの様なものとはかなり違い、大乗仏教を例え見方によってはという意味である。

解散の時、自称チェアマン(会長)のシャンガプリア僧侶は相当鬱憤がたまったのか阿修羅の様な形相で上川氏を睨みつけ何やらくだを巻いている。なんて言ったかはベンガル語なので僕らにはまるでわからない…。

それ以外はおそれていた抵抗も特になく、この会議は終焉した。はっきり言って大成功だ。

気になっていた3日後に開くことを検討しているバルワとジュマの僧侶を大勢集めて開く会議について、どうしても開く必要があるのか?とアウンに訊ねた。

彼は、はにかんだ顔をして首を横にふり苦笑いした。

よかった帰れる…。

Vol11『バルワのニューカマーとオールドカマー』

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